死刑執行(新方式)
(「星泉 絶体絶命」を設定を変えて書き直したものです)
今朝も緊張の時間がやってきた。呼び出しがあるのはこの時間帯だ。複数の足音がドアの前で止まったら危ない。呼ばれたやつは二度と戻らない。
数人の足跡が近づいてきた。今日はちょっと様子が違う。こんなに多いのは珍しい。足音がドアの前で止まった。4人の看守が迎えに来た。異例の人数だ、今日はいったい。
連れて行かれた先は恐れていたとおり、所長室。所長の前に連れて行かれた。
「法務大臣が命令書に署名をされた。本日執行する。穏やかに刑に服しなさい。言い残すことはありますか?」
「別にない。今日は普通の違うのか?」
「法律改正があってね。詳しくは刑場で説明する」
最後の食事をとると、刑場に引かれていった。後ろ手に手錠をかけられているが、ドアの前で黒い袋をかぶせられた。ドアを開けて部屋に入ると、首に縄を掛けれ、ゆっくり前に進まされた。この後13階段を上らされ、床が落ちるのだったな、と、どこかで聞いたことを思い出した。経験者から聞いたのではないことは間違いない。
手錠が外されて両手を広げさせられた。あれ、なんか変だな。冷たい壁に押しつけられ、両手を横に広げてくくりつけられた。
「脚を広げて後ろに下がりなさい」
言われたとおりにすると、今度は足首を固定されてしまった。いったいどうなっているんだ。磔か?
壁と思ったら後ろに動き出し、身体が上になって、仰向けに寝かされてしまった。
「もういいだろう。袋を外してやれ」
首のロープと袋が取り外された。急に明るくなってまぶしい。明るさになれると周囲の多くの目が向けられているのに気がついた。いったいここはどこなんだ。吊し首になるんじゃあなかったのか? 明るい室内、白衣を着た執行人? 高いところのガラス窓には、椅子にくくりつけられた死刑囚らしいのがこちらを向いて並んでいた。反対側は一般人らしい・学生か?
「新しい、刑場へようこそ。君が第一号だよ。今度、法律が変わってね、死刑囚にはこれまでの償いを充分してもらうために、医学に貢献してもらうことになった。我々は、法医学者と学生でね。いつもは変死者や殺人被害者の解剖をやっている。その経験を生かし、新しい死刑執行の執行人を仰せつかった」
くくりつけられた台は綺麗に磨かれて銀色に光っており、上にはたくさんの穴があけられていた。透けてはいないので、二重構造になっているようだ。その穴の数十カ所に、ボルトがさしてあり、頑丈そうで金具のついた革ベルトが固定されていた。
台の脚も普通ではなく、複雑な工作ロボットのようだった。
「これは特注品の解剖台だよ。生体解剖用に作ってある。
日本軍の731部隊では、中国人をマルタとよんで3000人以上捕まえて人体実験をし、生体解剖もした。毎日2~3人、多いときは5人も解剖したという。子持ちの慰安婦を泣き叫ぶ子どもの前で生体解剖をし、そのあとその子どもも犠牲になったそうだ。フィリピンでも捕虜をやっている。
九州では墜落したB29の搭乗員が軍法会議で死刑判決を受け、生体解剖された」
「俺をやろうってのか? 残酷な刑罰は憲法違反だろうが」
「監房内にはニュースが入らないようになっていたが、憲法は改正され、人権条項は残ったが法律で決めればなんでも許されるようになったのだよ。元の条項は残しているから、加憲といっているようだ。 死刑執行方法も改正され、生体解剖というのができるようになった」
どうやら、本当生きたまま解剖するつもりのようだ。
「だったら早く殺せ!」
「殺しては生体にならない」
と医師が笑った。
「本当にやるのか?」
「ただ切るだけだ。それなら学生にだってできる。今日は、学生たちにも勉強のために執刀してもらう」
「いやだ! 生きたまま・・・そんな・・・」
「生きたまま・・・麻酔もなしでやる」
「悪魔!」
医師が微笑んだ。
「”セーラー服と機関銃”に同じせりふがあったな。でも、今度は善良な女子高生が拷問されているのとはわけが違う。悪魔の所行で死刑判決を受けたのは君だろう。ゆっくり死んだ人たちの気持ちを味わってもらおうか」
夢中で逃れようとしたが、両手首、両足首を大の字に広げられて縛り付けられているので逃げられない。それでももがいて暴れていると、さらに押さえつけられ、両腕は真横に広げられ、両脚は大きく開いて、念のいったことに、両腕両脚の関節ごとに3カ所ずつ、革ベルトできつく固定されてしまった。手足に力を込めて動かそうとしたが、ベルトが食い込むだけでびくともしない。手首から先、足首から先、頸から上がかろうじて動くだけになってしまった。これでは騒ごうがわめこうが全く身動きが出来ない。
だぼだぼの囚人服は着たままだが、袖は肩が出るまでたくし上げられ、ズボンも太腿が丸出しにされて、革ベルトで固定されている。口には猿ぐつわをかまされてしまったが、口でも呼吸は出来るようだ。
解剖台の頭上の手術用の無影ライトが点灯され、まぶしいほどの光が投げかけられた。
天井を見ると、なぜか鏡がつけられていて、全身が見えるようになっている。解剖される人間に自分が切り刻まれる姿を見せようというのか、、。天井や部屋のまわりにはテレビカメラが何台も据え付けてあり、解剖台に向けられていた。くくりつけられた様子がモニターに映し出されている。記録するつもりらしい。
年輩の医師らしいのと何人かの学生が手術着に着替えて囲んでいる。
「服が邪魔だな。取ってしまおう。」
「この状態で脱がせるのは無理ですよ。外せば暴れそうだし」
「どうせ体はばらばらになってもう着ることはない。切り裂いてしまえ」
学生達が囚人服の上着とズボント、下着までもはさみで切り、引き裂いて、たちまち全身むき出しにされてしまった。
「きれいに片付けろ」
体と解剖台にはさまっていた服の切れ端も引き出され、固定ベルト以外、一糸まとわぬ姿にされてしまった。解剖台の横にぼろくずの山ができた。
腕と脚を固定したベルトは締め直され、さらに、腰には内股から左右の骨盤にかけて斜めにベルトが掛けられ、肩にも鎖骨と肩胛骨に斜めにベルトが掛けられ、締め付けられた。これで、腰と肩の左右を固定され、胴体はびくともしなくなってしまった。額にもベルトを掛けて頭を固定されてしまったので、顔を動かすこともできなくなってしまった。これだけ頑丈に固定されているのに、顔から股まで体の中心を横切るベルトはなく、腹と胸は大きく開いている。解剖の邪魔にならないように考えているのだろう。ステンレスに背中が押しつけられて冷たい。手術台ならクッションがあるし、解剖台なら固定ベルトなどない。特別に作らせたのでなければ、こんなものはどこにもないだろう。天井に鏡があるので、自分で自分の体を眺めることになってしまった。
「ふむ・・・」
医師はじっと体を見下ろした。
「素晴らしい! これこそ、私の望んでいた肉体だ。全く完璧だ!
これまで変死の死体ばかり解剖してきたからな」
医師は微笑みを浮かべた。
「猿ぐつわは窮屈だろうが、舌をかんで死なれては困るのでね」
そして、傍らの台からメスを取り上げた。
「解剖をはじめるぞ。まずどこからはじめるか?」
学生の一人に話しかけているようだった。
実際に解剖が始まると、激痛が延々と続くだろうが、どう反応したらよいのだろうか。痛みを我慢する意味は全くない。しかし、手術なら痛がれば加減したり麻酔を強めたりするだろうが、ここでは喜ばせるだけだ。むしろ、面白がってよけい痛い思いをさせられるだけだろう。
「腹からでどうです?心臓や肺を傷つけると死んでしまうので、最後まで残しておいた方がいいですね。首から上には、触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚と、5つの感覚器官が集中しているし、脳などの感覚をまとめる中枢神経がありますから、意識が鈍らないように、初めは傷つけない方がいいでしょう。脳へ行く血管を傷つけると致命傷になります」
「解剖の様子は、しっかり見て、聞いてもらおう。血の匂いも感じるだろう。自分の内臓を食わせて味わあせてやろうか」
「胆嚢あたりはすごい匂いと味がしそうですね。切るのは腹からでいいですか?」
別の学生が口を挟んだ。
「けど、武士は切腹で死んだんでしょう? 腹を切ったら死んでしまうのではないですか」
「切腹はなかなか死ねないそうだよ。すぐには死にきれず、介錯なしだと何時間も苦しみながら生きているのだ。それに猛烈に痛い。それで、武士の強さを見せるために切腹というのがあったそうだ。」
「切腹を命ずる、なんて刑があったけれど、本当に自分で切ったのでしょうか?」
「実際は、形だけで、白扇子を当てて斬首というのがほとんどだったようだな。武士でも自分で腹なんて切れるものではない。赤穂浪士だって、実際に腹を切ったのは大石内蔵助とか、数人だけだそうだ。」
医師がメスを取った。
「では、腹から切り始めるとしよう」
「四十六浪士のほとんどが実際にはできなかった分の切腹を、介錯なしで一人でやってもらうようなものですね。これだけしっかり縛り付けてあれば、暴れて困ることもないでしょう。出血がひどいとそのショックで死んでしまいますから、止血をして少しずつ様子を見ながら切った方がいいですね。」
「内臓の場所を復習しよう。腹に書いてみなさい」
「胃がこのあたり、その横に肝臓、裏に膵臓と脾臓、胃に十二指腸がつながって、小腸と大腸ですね」
腹に内臓の輪郭がペンで書き込まれていった。
「心臓。肺はこのあたりですから、初めは切らないように注意した方がいいです」
「日本軍は、捕虜に麻酔をして生体解剖したようだな? これからやるのは、それ以上のに残酷さというわけだ」
「麻酔をしたという証言もありますが、実際は、麻酔剤など薬はほとんどなくなっていて、使う余裕はなかったようです。臓器への薬の影響を避けるためにわざわざ麻酔なしで生体解剖したという証言もあります。野戦病院では、手足を大怪我した場合など、麻酔なしで切断していたそうですから、捕虜にまで使う分はなかったでしょう」
場が少し白けたようすだった。
「だが、どうせすぐに殺してしまったのだろう?」
「そのようです。麻酔なしで切り始めますが、さすがに苦しんでいるのをそのままは続けられず、絶命させたり、気絶させてから続けたようですね。それに、こういうときは普通以上の力が出ますから、麻酔もせずに生かしておいては、暴れて押さえておくのも大変でしょう。」
「そうだろう。今日はいくら苦しんでも簡単には死なせはせん。気絶しても目を覚まさせて、たっぷりと苦しませてやるぞ」
医師の顔に笑みが戻った。
「学生がやるカエルやマウスの生体解剖でも麻酔はしますね。脊椎動物の解剖は麻酔を使うことが動物保護法で決まっています。麻酔が切れると暴れ出してやっかいです。麻酔なしで、それも人間の生体解剖なんて珍しいでしょう。戦時下の日本軍はやったようですが、、。麻酔のない時代の手術はあまりの痛さで地獄図のようだったそうですよ。大勢で押さえつけながら手術したのだとか。朝鮮王朝の医女チャングムの時代の宦官の去勢手術では、麻酔なしで一気に切り落としていたとか。
今回は、念入りに固定したので、いくら暴れようとしても動けませんから、意識があるままでも落ち着いて解剖できます。無麻酔の手術は一部切るだけですけれど、ショックで失神してしまうことも多かったようです。今日は全身切り刻みますから、どこまで持つか」
「痛みを感じなくなってしまってはつまらない。何とか気絶させないようにしたいな。これだけ残酷な殺し方は、過去にも例はないだろう」
「気つけ薬にブランデーとアンモニア水を用意しています。これを口にたらしたり鼻から嗅がせます。氷水も用意しました。顔に冷水をかけるだけでも効果はあるでしょう」
「覚醒剤も意識や感覚を戻すには役に立つのではないか?」
「そうですね。いろいろためしてみましょう。それより、気絶しない程度に切っていきましょう。強い痛みは切っているときでしょうから、様子を見ながら少しずつ・・・。開腹手術では何時間も開けていて大丈夫なのだから、血管を切らないように気をつければ、すぐには死にませんよ。麻酔というのは身体にはかなりダメージを与えるようです。麻酔なしだと、むしろ全身麻酔の手術なんかよりずっと長く持つかもしれませんよ。
生きている内臓なんて医者でもよくは見られませんよ。手術では必要なところしか切りませんからね」
血の気が引いてきた。このまま失神して意識がなくなってしまえばいいのに、なぜか逆に頭が冴えてきてしまっている。
医師がのぞき込んで言った。
「心配するな。医学を学んでいる学生たちだから少しは分かっている。人体解剖の経験ぐらいはしているさ。傷口を縫い合わせる技術は怪しいが、出血多量ですぐには死なないように切っていくだけならこいつらにもできる」
この場合、早く息の根を止めてもらった方がましだ。
「こいつ、こんな時に勃起していますよ」
「おもしろい。まず性器の切断からいこう。去勢手術というわけだ。
まずは、精子の動きを復習しよう」
「死なせずに取れるでしょうか。無傷の子宮を取ってしまったなんていうニセ医者がいましたね。性転換というのもあるし、男の場合もなくても生きていけるものなら大丈夫でしょう。本人にも自分のを見せてやりましょう」
今度は別の色のペンで、腹の上に書き始めた。
「膀胱はこのあたりで、小腸をどかせてやれば奥にあります。ばらばらに取り出しますか?」
「いや、ペニスから全部つながったままとろう」
「ペニスは、外から見えない部分でも奥までつながっています。骨盤の真ん中を通っていて、体の中心を通っているから、体をくりぬくように丁寧に切っていかなければなりません。太い血管とか神経とかがすぐ横を通っているので、慎重に避けながら切りましょう。膀胱がペニスのすぐ前、直腸がすぐ後ろにくっついています」
「妹を殺して、下腹部を切り取ったなんて事件があったな。死体が女だとわからないようにしたかったらしいが」
「そんなことをしても、死体の一部を調べれば男か女かなんてすぐにわかりますけれどね。骨の形でわかるし、形がわからなくなってもDNAがあれば一発です。あの事件の場合は、もちろん殺してから切り取ったのでしたね」
「アフリカの未開の村では、まだ割礼なんてのをやっているところがけっこうあるらしいな。あれは女性器を切るのだろう?」
「それで、反対派ははっきり女性器切除とか女子性器切除というそうです。国を挙げて撲滅運動なんかやっていたりしますがね。なくならないようですね」
「いったいどこを切るんだろう?」
医師と学生たちは、メスで下腹部をつつきながら話し始めた。
「少女のクリトリスを切り取ったり、小陰唇や大陰唇まで全部切ってしまうこともあるようです。男性ならクリトリスは陰茎ですね。陰唇は陰嚢に当たります。小陰唇を縫い付ける場合もあるとか。どちらにしても、エクスタシーなんか感じられなくなって、生涯セックスが苦痛だし、出産も大変なようです。もちろん、正規の医者はそんなことをせず、怪しげな呪術師がお清めと称してやるわけですから、麻酔はしないし感染防止もいい加減で、死んでしまう場合も少なくないそうです。感じやすいところを切られる本人は痛くて泣き叫んでいるところを押さえつけられて大事なところを切られてしまうわけです。まあ、これをされれば、不倫なんかする気にはならなくなるでしょうが、そんな女の相手をするくらいなら処女膜がすり切れていたほうがましですな。」
「男の割礼は先っぽを切るだけですけれどね。それでも痛みは大変だし、不衛生で死んでしまうことはある」
「今日は、外だけでなくて、中までえぐり出すから、究極の割礼というわけだ。何とか生きたまま取り出そう。切るときに苦しむ様子も見たい」
「やってみましょう。足を開いて固定してあるから、股下からと下腹部の両方から切っていきましょう。腹の前の大腸から直腸を通って後ろの肛門につながり、背中の腎臓から前の膀胱に輸尿管がつながっていて交差しています。このあたりは複雑です。みんな一緒に切り取って、直腸と尿管はあとで別にしましょう。神経がつながった状態で刺激してみて、反応をみるのもいいかもしれませんね」
言いながら、股下あたりが、ペンで丸く囲んで線が引かれた。
「では、割礼から始めますか?」
「そうしよう。精子の道をたどっていこう。まずは陰嚢を裂いて睾丸を取り出し、輪切りにして中を観察しよう。これは命に別状はあるまい。その後、精管をたどって上に切っていき、腹を裂いて、腸を引き出してから、精管をたどっていくことにしよう。そのあと、陰茎を縦に切って、射精の道をたどるとしよう。最後に中側からそっくりえぐり出すことにする。
途中で意識がなくなってしまっては死体解剖みたいになってしまうな」
「出血がひどくなると血圧と体温が下がって感覚が鈍くなるから、点滴でブドウ糖と昇圧剤を注入して、体温が下がったら暖めながらやりましょう。普通の手術なら感覚が麻痺した方がいいのですけれどね。弱ってきたら、休ませてアミノ酸の点滴をしましょう」
「充分感じてもらわなければ勉強にならない。その後はどうしたらいいかな」
「外性器から精嚢までのセットで取り出して、標本の一号にしたらどうでしょう。腸は伸ばして引っぱり出しますか? 消化管を引きのばすと9mくらいになります。水を入れてふくらませてみるのもいい実験になるかもしれません」
「いや、形が崩れてはいい標本にならない。内臓でまとまったまま標本にしたいな」
「では、消化器官はまとめて取り出して標本にします。シリコンで固めてプラスティネーション標本にする準備は出来ています。新鮮な標本だからきっと綺麗にできますよ。内臓には血管がたくさんつながっているので、切り出すときは、血管の1本1本を縛って、大量出血にならないようにしましょう。大動脈を傷つけると、血が1mの高さまで噴出すそうです。消化器官の後ろの腎臓は膀胱や性器とセットの標本にするといいですね。手足はどうしましょうか」
「皮をむいて、筋肉を見たいな。引き締まった筋肉をしていそうだ」
「太い血管は切らないようにして、表面の皮をみんなむいてしまいましょう。死体の皮を剥ぐより、柔らかくて作業は楽でしょう」。
「生きたまま、全身の皮を剥ぐのだから、なかなか刺激的な作業だな。
心臓が生きて動いているのも見たいものだ。
古代アステカでは、生贄に生きた人間から取り出した鼓動する心臓を捧げたそうだ。今日の生贄は、どの神様に供えたらいいかな。
アステカでは、心臓を取った後、頭皮をむいて神官がかぶって儀式をしたり、全身の皮をかぶったこともあったらしい。心臓を取ったら死んでしまうから、今日は皮むきを先にしよう」
「両脇の肋骨の下の二対は背骨から脇までで終わっていますが、上からそれぞれ10本目までは胸の真ん中の胸骨につながっていますから、これを肋骨専用の解剖はさみで脇のところを切り開いて、胸骨の上部を鎖骨から外せば胸板を丸ごと外せます。肺に穴を開けないようにゆっくりはがしていきましょう。まだ生きていれば、心臓と肺の動きが見えるはずです。ただ、肋骨を切り開いてしまったら自分では肺を動かして呼吸をすることがができなくなってしまいますから、その前に人工呼吸器を取り付けておきます。肺の伸縮は人工的に動かすところを見ることになります。この時まで意識を持たせられるといいですが」
「おまえたちにも、一人一本ずつ切らせてやろう。いい音がしそうだな。痛みも強烈だろう」
「老人の肋骨は柔らかいのでメスでも切れてしまいますが、若くて肋骨が丈夫そうだから、専用のハサミでも切るのは大変かもしれません」
「切りにくい方が、刺激が強くで反応の勉強になる。一瞬のうちに切ってしまうより、ノコギリでゆっくり切っていくのもいいかもしれない」
「一本一本、強い衝撃でしょう。普通の骨折の何倍もの痛みになるでしょう。これが20回続くから、充分楽しめます。気絶したら少し休んで気付けをしてからゆっくり続けましょう。
思わぬ力が出て暴れるかもしれませんから、固定ベルトはしっかり締め直す必要がありそうです。
そういえば、公害病で何年も骨が折れ続けるというのがありましたね。あれも痛そうですね」
「予定通りいくと、このときまでに、もう腹の内臓は全部とってしまっているし、全身の皮をむいているから、神経も麻痺してしまっているかもしれないな。」
「ここまでは胸から上は無傷で残しますから、うまくするとまだ意識があるでしょう。脳の方は傷つけていないですから、血液が行っている間は生きています。下半身の神経が麻痺しても、今度は、背骨に直接つながる骨を切るわけで、刺激が脊髄にそのまま伝わるから大丈夫でしょう。腹が空っぽだから、肋骨は下から切っていくといいですね」
「生かせておけるかな。反応がなくなってしまったら生体解剖の醍醐味がなくなるからな」
「ここには最新の手術器具も生命維持装置も揃っています。レーザーメスも使って出血を押さえ、出来るだけ長生きさせましょう。
AEDもあるから、ショックで心臓が止まったら使ってやりましょう」
「肺や心臓までとったらさすがに終わりだろうな」
「人工心肺をうまくつけて、頭部に血液と栄養分を送ると、しばらく生かしておけるかもしれませんよ。首だけ残って生きているというのもいいですね。切り落とした首の目が動いて睨んできてなんて話があるから、案外大丈夫かも」
「最後に残っているのは、内臓のなくなった胴体と皮をむいた腕と脚、それに首がついているということになるな。この状態で生きたまま標本作りをはじめよう。
どのくらい生かせておけるものかな」
「移植手術では、36時間かかったなんてのがあります。致命傷を与えないように注意しながらやれば、結構長く、生きたままの解剖ができるでしょう。うまくいけば、休みながら解剖して何日かもつかも。その間、苦しみ続けることになる。
医学部の解剖では、1体を何ヶ月かかけて切り刻んでいくそうだから、そこまでは生かせてはおけませんけれどね。死んだ後は、丁寧に標本にしていきましょう。
脳と感覚器官を傷つけないようにして、血液を人工的に循環させて酸素と栄養を供給すれば、頭部だけで生き続けるかもしれませんよ」
「生体解剖で作る標本なんて珍しいだろうな」
「死ぬときは必ず死因がありますからね。怪我なら致命傷になった大きな傷があるし、病気ならだめになってしまった臓器がある。それも一つではなく、死ぬときはいろいろな臓器が少しずつ悪くなってしまって、健康な臓器はなかなかありません。全身の臓器が健康な状態で標本になるなんて前代未聞ですよ。それもこんなに若くてピチピチの肉体の標本なんて貴重品です。ナチスや731部隊では生体解剖をやりましたが、解剖前に人体実験をしていますからね。無傷ということはない」
「それは素晴らしい。
生きたまま切り始めると、血管に気をつけてもずいぶん出血があって邪魔になるだろう。準備はしてあるのだろうな」
「洗うためにシャワーで食塩水が出るように用意してあります。生理食塩水を人肌に暖めておくのが刺激が少ないでしょうが、それでは反応の研究にはならないので、もっと濃い食塩水を、熱めに暖めておきました」
「傷口に食塩水とは、刺激が強くていい実験ができそうだな。だが、熱いのをかけたら、やけどをして標本を傷つけるのではないか?」
「触ると熱いけれど、やけどをしない程度の温度にしています。試してみましょう」
と言うと、シャワーでしばらくお湯を出してから、手にかけた。
熱さを感じるより前に、全身の筋肉が反射で収縮を始めた。普通なら瞬間的に飛び上がっていたところだろうが、固く縛り付けられているので、全身がけいれんしただけだった。
「ご覧のように、感じはしますが、皮膚を痛めはしません。別のところでも試してみましょう」
と、今度はすねのあたりにかけた。身構えたが、やはり全身けいれんして、今度は激痛が走った。大暴れをしたときに擦り傷を作ったらしい。傷口に熱湯の食塩水をかけられたからたまらない。反応すれば喜ばせるだけだと思っても、意思とは無関係に体が反応してしまう。
「傷口の消毒になってちょうどいいでしょう。もっとも、化膿し始めるまで生きてはいないでしょうけれど」
「これは便利だ。解剖の切り口にかけたときの反応も興味深い」
「これで洗いながら解剖を進めましょう。ブラシも用意してあります。塩を擦り込むのもいいかもしれません」
「苦しみでゆがんだ顔の標本を作ることにしよう。犯罪者へのよい見せしめになるだろう。たっぷり痛みを味あわせるから、顔面が変形してしまうだろう。死んだら、その時の表情を、そのまま固定して標本にしよう」
「死んでからも苦しみが続きそうですね」
「中世のキリスト教の魔女裁判では、10万人が殺戮されたが、魔女はできるだけ残虐な方法で殺すのが、罪を消し、魂を救うことにつながるそうだ。殺すなかれのはずのクリスチャンに今でも死刑肯定派がいるのも、そういう理屈らしい」
「それでは、罪深いこいつも、きれいな魂を天国に送ってやれるわけですね」
「そうだ、しっかり償わせるためにも、遠慮なく切り刻んでやれ。では、そろそろ始めるか」
学生らしいのが増えてきている。みんな手術着を着ていて、顔が青ざめて見える。老医師だけは紅潮させているが。
「度胸試しだ。みんなで少しずつ切るんだ。深く切りすぎないように慎重にな。じゃあ、切るところに線を引いて指示してくれ。どう切っていったらいいかな」
「オーソドックスに、Y字切開といきましょうか。まずは、鎖骨に沿って左右に切れ目を入れ、中心を縦に切り下げていきます」
といいながら、首の下あたりに骨の上にY字が書かれ、そこからまっすぐ下にペンで線が引かれ始めた。
「鎖骨や胸の前は皮のすぐ下に骨があるので筋肉や内臓を切りすぎる心配はありませんが、胸骨が終わったあたりを切りすぎると、心臓や肺を傷つけて致命傷になるので注意が必要です。へそは切りにくいのでよけたほうがいいでしょう。次に、斜め下に逆Y字に切り広げます」
腰のあたりに、左右斜め下に線が引かれた。まるで教科書にあるカエルの解剖の説明図である。
「この線に沿って表皮を切り、まずは全体の皮を剥がして切り広げてしまいましょう。
はじめは、この線に沿って皮を切り、腹全体の皮を左右に剥がしてきます。表皮の下あたりが一番敏感ですから、全部剥がすまでにたっぷり苦しめられるでしょう。痛みのショックで気絶するかもしれませんから、そのときは休んで気付け薬を使って意識が戻ってから続けることにしましょう。たっぷり研究できそうですね。
そのあと、内臓を切らないように、感じやすいところを探しながら腹筋を切っていって、脇腹で切って、さらにひとまわり深く切って腹筋を全部取り除き、内臓をむき出しにします。上部は横に切って、胸部と分けたほうがいいですね」
といいながら、腹と胸の間あたりに水平に線が書き加えられた。
「最初は大網という膜があるので切り開きます。そうすると小腸などの消化管が見えてきます。小腸の部分を引き出せば、裏側に生殖器官が見えてくるはずなので、それを刳り抜いて切り出すところから始めましょう」
「一人当たりの分担も決めてしまおう。一人分ずつ区切ってくれ」
切り開く線のところどころに区切り線が入れられた。どうやら本気でをばらばらにするつもりのようだ。これでいよいよ最後か・・・。
役人らしいのが出てきて解剖を中断させ、話しかけてきた。
「さて、法律改正で死刑執行方法が変わったが、同時に、新しく死刑にも執行猶予の制度ができたのだよ。被害者の遺族の意見も聞いて、猶予を決めることもできる」
見学席の方を向き。
「では、遺族の方、ご意見をお聞かせ下さい。このまま執行してもいいですが、期間を来決めて執行を延期することもできます。ご希望はいかがですか」
「まだ反省の言葉も聞いていない。このまま死なれても被害者たちは浮かばれません。反省の機会を与えてやって欲しい。でも、反省の言葉を口にしたら許してやらなければならないのですか?」
「いや、形だけ反省してもしょうがない、許せなければ改めて執行でもいいですよ。それと、社会貢献を条件にすることもできます。たとえば、非行少年に面接させ、二度と罪を犯さないように指導させる。真面目に過ごしているうちは死刑を猶予し、少年が再び罪を犯したら、執行ということもできる。
反省したと確信できるようなら終身刑に減刑ということもできますが、無期限の執行猶予というのもあります。これだと、問題を起こした時点で死刑執行ということになります。
他に、減刑方法として、モルヒネ使用というのがあります。基本的には麻酔なしの生体解剖ですが、麻酔を使って痛みを和らげてやるわけす。多少は情状酌量の余地があるようだと、この方法をとります。従来通りの絞首刑もあります」
猿ぐつわが外された。
「まずは、本人に聞いてみましょう。何か言いたいことはあるかね?」
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